<場>へ執着することは、作家が作品をつくり出すひとつの動機であろう。写真とモノによるコラージュ作品をつくり続けている平山清隆(愛知県扶桑町)が、選んだ<場>は、およそ画題とは無縁な無名の峠であり、水辺である。
多くは木やアシなどが生い茂る植生を至近距離から写した写真とそれら植物さのものを組み合わせたものだ。タイトルには地名が明かされている。しかし、作者が提示したいのは、具体的な地名が喚起するイメージやそのイメージを増幅した図像ではない。地名には「標本」の採集地を記録する程度の意味しか与えておらず、あえて無名の場所にこだわっているように思える。
作者の関心は、森、水辺といった日本的風景の核心をなす要素の「相」を抽出することにありそうだ。だから、コラージュという現代的手法を用いた作品でありながら、なぜか安堵して作品に見入る自分に気付かされるのである。芦原やこんもりした森の光景が古代からの記憶を呼び起こすのだろうか。やはり自分も縄文人の末裔(まつえい)であったと。
今回、初めて写真の中の植物を切り抜き、写真や現場と重ね合わせた。このため、より作品の構造は重層的になるとともに、造形的な面白さを増した。子供の標本箱のような乱雑さは消え、洗練されたと言えよう。
蛇足ながら、これが美術、絵画なのかと疑問を持たれる向きには、現代日本美術展、日本国際美術展をはじめ、すでに数多くのコンクールで入賞、入選し、写真としてではなく絵画として認知されていることを付け加えておきたい。
平山清隆展は、16日まで名古屋市中区栄3-7-102、ウエストベスギャラリーで。日曜休み。
1991年2月8日 朝日新聞(夕刊) / 渡辺淳悦